妊娠期間中、関節リウマチの疾患活動性が低下することをよく経験します。
しかしながら、関節リウマチの疾患活動性が上がってしまう方もおられますので、治療をどうすべきかの思案が必要となります。
従来型の抗リウマチ薬であるメトトレキサートは、催奇形性の問題から中止すべきです。その他の従来型抗リウマチ薬であれば、動物実験でも催奇形性がなく疫学研究においても胎児毒性の認められていないサラゾスルファピリジンとなります。疾患活動性が制御できなければステロイド内服も候補になりえます。
関節リウマチの疾患活動性があまりにも高く妊娠維持にも問題のある状態の場合は、やはり生物学的製剤の使用を考えると思います。症例報告レベル、それも海外のものなのですが生物学的製剤の中ではエタネルセプトやセルトリズマブペゴルは胎児への移行が極めて少ないと報告されております。
これらを使用する際には候補となりうるのですが、安全性はあくまでも症例報告レベルということを肝に銘じ利益と不利益のバランスを考えた上で使用することなります。
早くて妊娠18週から認められるようになる胎児のFc受容体というものと結合することで、生物学的製剤は胎盤を通って胎児の体に入ることができます(図)。妊娠第3期以降には、母親に投与された生物学的製剤が胎児に移行する可能性が高まります。
アダリムマブとインフリキシマブは、FcRに強く結合するので胎盤移行性が良い。
エタネルセプトは、FcRに弱く結合するので胎盤移行性が悪い。
セルトリズマブペゴルは、そもそもFcRに結合できないので胎盤移行性がない。
以前、妊娠すると8割以上の方は、関節リウマチの病状が良くなると報告されておりましたが(Bull Rheum Dis. 1976-1977;27(9):922-7)、統計の仕方に問題があり最近では妊娠中は約6割の方だけ病状が良くなると報告されております。
そして、出産後には約5割の方は病状が悪化すると報告されております(J Rheumatol 2019;46(3):245-50)。
ただし、妊娠中も注意して治療を続け関節リウマチの勢いを安定させておけば、病気の勢いの再燃を避けることができるとわかっております。表にある薬剤の中には報告数が少ないものもあるため、確実に推奨とは言えないものも含まれておりますが適切に使用し関節リウマチの勢いを抑え、健康な赤ちゃんを生み、そして育てましょう。
妊娠を諦めることなく元気な赤ちゃんを産み育てている方々が、当院には多数通院されております。
子供は、希望の光です。あなたの赤ちゃんが、いずれノーベル賞を取るかもしれません。
今度は、あなたの番です。
表. 妊娠中および授乳中の抗リウマチ薬の適否 Ann Rheum Dis. 2016 May;75(5):795-810改変 |
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妊娠 | 授乳 | |
スルファサラジン | 先天性奇形の危険なし。妊娠中使用可 | 使用可 |
グルココルチコイド | 妊娠中は可能な限り低用量で使用。先天性奇形の増加なし。早産や、高用量の場合は妊娠までの期間延長と関連。 | 使用可 |
メトトレキサート | 催奇形性あり。妊娠中不可。 計画された妊娠の1~3ヶ月前に中止。 |
使用は避ける |
レフルノミド | 催奇形性あり。妊娠中不可。 妊娠前にコレスチラミンによるウォッシュアウト要。 |
使用は避ける |
非ステロイド性抗炎症薬 | 先天性奇形の危険増加なし。妊娠後期に中止する必要あり。 | 使用可 |
セルトリズマブぺゴル | 先天性奇形の危険なし 妊娠中使用可 |
使用可 |
インフリキシマブ | 先天性奇形の増加なし。妊娠20週前に中止する必要あり。 | 使用可 |
アダリムマブ | 先天性奇形の増加なし。妊娠20週前に中止する必要あり。 | 使用可 |
エタネルセプト | 先天性奇形の増加なし。妊娠32週前に中止する必要あり。 | 使用可 |
ゴリムマブ | 先天性奇形の増加なしだが利用可能な情報が少なく推奨不可。 | 情報に乏しいが専門家の意見では安全 |
他の生物学的製剤(トシリズマブ等) | 先天性奇形の増加なしだが利用可能な情報が少なく推奨不可。 | 情報に乏しいため使用は避ける |